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2011年10月06日

『簡素なお菓子』 Part 5

06112.jpg『簡素なお菓子』
著者:河田勝彦
発行年月:2011年5月14日
判型:B5変 頁数:96頁


2種類のカスタードクリーム

フラン はフランスの家庭菓子です。
タルト生地の中にカスタードクリームを入れて焼く、シンプルなお菓子。

河田さんはこれまでの取材では、カスタードクリームを炊くときには
「粉にしっかり火が通る意識で炊け」といってこられました。
ふつふつといってきたらもうひと息炊くのが基本でした。
ところがフランでは、ふつふついってきたらすぐに火をとめたのです。

???
なんでだろう?

追加取材のときに聞いてみました。

「うー、あれはとろんとさせたいんです。
ふつうのパティシエール(カスタードクリーム)みたいに火を入れると、
冷めたときにくっとしまってきて食感が悪くなります。
あー、また粉は小麦粉だと火を入れ切らないと粉っぽさが残ってしまうので、
コンスターチにしたわけです」

なるほど。。。

「とろんとさせたい」ということから加熱時間も素材もチェンジ!
しかもなるべく早く食べてほしいとのこと。「とろん」が命なので。
シンプルなものでも、イメージがきちんとあるのです。
それに沿って基本のクリームをマイナーチェンジしたわけです。

パティシエのみなさん、そういう発想があるでしょうか。
何年か前にあるお店でフランをいただきました。午前中です。
ホールで冷蔵庫から出したものをその場でカットして供されたそのフランは、
ギュッと締まって固かったのです。正直、あまりおいしいとはいえませんでした。
とかく配合主義、「これはこうつくる」と決まっているのがお菓子の世界です。
でも、おいしく食べさせたいと思う意識が味を変えます。
つくり方を少しだけ変えます。

簡素なお菓子だからこそ、そのことがよくわかります。
「ムラング・コック」と「ムラング・シャンティイ」というメニューがあります。
同じメレンゲでも方向性の違う配合、つくり方のものを河田さんはあえて選んでいます。
違うものを2つ並べて見せる理由があります。
それはどうぞ本でご覧ください。

kanso_vol.5_1.jpg(左)ムラング・コック
エスプレッソと合いそうな苦甘いメレンゲ

(右)ムラング・シャンティ
香ばしいサクサクの生地においしい生クリーム


同書には、基本的なおいしさに関するそうしたヒントが隠れているのです。
あなたはいくつ読みとれるでしょうか?
探してみてください。
レシピだけから読みとれたら、素晴らしいかもしれません。

kanso_vol.5.jpgそれでも変えてはいけないこともあるようです。
今回は「フラン・ナチュール」を紹介しています。

バニラもなにも入れないから
「ナチュール(味を加えない)」です。

でも、卵の味が素朴すぎて、
つい「バニラとか入れちゃだめなんですか?」
と聞いてしまいました。

「ナチュールですから、それはそういうものです」

と河田さんはきっぱり。

変えなくてはいけないとこと、変えてはいけないところがあります。
バカな質問をしてあらためて気づきました。

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投稿者 webmaster : 2011年10月06日 13:32