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2018年12月10日

日本料理の季節の椀』

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著者:奥田透、末友久史、松尾慎太郎 共著
発行年月:2018年11月26日
判型:B5 頁数:168頁


日本料理の料理人さんたちが、もっとも力を入れてきたジャンルである椀物。しかし、近年はその伝統が薄れつつあるように感じます。

まず第一に、椀という器を作ってきた産地の疲弊が挙げられます。家具のような何十万、何百万もする商品や、アクセサリーのような購入しやすくて数が出る小物ならともかく、椀では売上げを大きく伸ばすことができません。安価な中国産や人造の代用品に押され、それどころか椀自体を使わない家庭も現れています。

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また料理人の世界でも、椀という器を避ける動きがあります。日本の伝統美を受け継ぐ椀の意匠は、しばしば季節の草花などが描かれますが、そうなると使える時期が限定されます。春の花の椀を秋に使うわけにはいかず、店側はいくつもの種類の椀を用意するため、負担が大きい。さらに椀に使うだしはよしあしがはっきり表れ、原価率が高くなりがちです。

いっぽうお客側はといえば、食器棚に椀を常備しないくらいですから、日本文化離れは日を追うごとに顕著で、吸物と汁(前者が酒の肴で、後者はご飯のお供)の区別もつかない人たちが増えました。料理人の心入れほど椀に魅力を感じてもらえず、であればと、献立に椀物を入れなかったり鍋などで代用する店も現れています。

実際そうしなければ営業が成り立たない店は、椀物を省略する道も確かにあると思いますし、わかりやすくて喜ばれやすい料理を否定するものではありません。しかし日本料理の技術や伝統を守りたい側としては、残念でなりません。また我々出版社側も、椀物の撮影は一度にたくさん行なうのが困難なため、これまで椀物の単行本をあまり多く世に送り出してこなかったのも事実です。

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そこで本書は今もっとも脂の乗った、東京・京都・大阪の3人の料理人さんたちに、“現代”の椀物を作っていただきました。伝統技法を大事にし、その効果を高めるにはどうしたらいいかを深掘りする奥田さん。京料理らしさを感じさせつつ、大胆な素材使いでまったく新しい椀物を創造する末友さん。大阪の伝統野菜と新食材の二挺立てで、大阪的な華のある料理に仕立て上げてみせる松尾さん。それぞれが個性を持ち、他にない椀物を表現してくださいました。これを機に椀の真価が見直され、産地が少しでも元気になる一助になれば幸いです。

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投稿者 webmaster : 2018年12月10日 16:48