新・フードコーディネーター教本2021
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かけて知ること。それはフードコーディネーターという職業をめざす人に与えられた特権であり、責務でもあるのだ。しかし、食べるということは、ただ単に栄養を摂取するために食べるだけでなく、どう食べるか、どう食べさせるのかという文化としての食を享受している。つまり、食べることの意義は、栄養摂取としての「生理的意義」と、文化としての「心理的・精神的な意義」の二面性がある。生理的な意義は、食物摂取によって生命を維持し、健康を保持、子孫を繁栄することである。心理的・精神的な意義では、経済・社会の動向に関連し、社会的・政治的・宗教的、そして家族団らんのコミュニケーションの場とすることである。『美味礼讃』(ブリア=サヴァラン著)では、食こそ精神生活の根源であることを実証的に説いて、食味の楽しみを罪とする禁欲主義から人々を解き放った人間哲学について述べられている。フードコーディネーターになるためには、おいしさの感覚・要素、食べ物の味・香り・色など関連分野の基礎的教養が必要であり、洗練された感性を身につけなければならない。感性とは、物事を直感的に感じ、豊かな感情や好奇心、想像力、創造力を生み出す源である。また、心に安らぎや潤い、活力を与え、意欲を活性化するはたらきをもつ心のエネルギーのことでもあり、感性の要素には美的価値観と科学的好奇心が必要である。それらは物事を深く観察したり、積極的に感じようと心がけることで深められる。食に対する感性は、食の場を構成する総合的な成果と、それを評価する人の内的基準のレベルとの対応である。食卓はつくる側と座る側の教養の戦いであるといえる。111. 食と感性人間を含めて生物は、生命を維持し、健康な日常生活を営み、子孫繁栄のためにさまざまな食べ物を外部環境から体内に取り入れなければならない。そして、取り入れた食べ物を分解してエネルギーに変え、体組織を構成したり、生理機能調節物質を合成している。2. おいしさと感覚食べ物のおいしさは、生理的には感覚受容器(視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味

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