菓子店パン店開業読本
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約9坪築64年の古民家を改装した「カフェコパン」。清水さんは物件選定時から相談にのった。私のお客さまの予算は1 0 00万円前後が多いですね。皆さんの限られた予算をできるだけ有効に生かしたいので、予算を抑える工夫はいろいろとやってきました。たとえば、コメットは、もとはうどん店の居抜き物件ですが、純和風の外観をどこまで残して洋風にもっていくか、そのさじ加減が難しかったですね。洋風につくり変えるには、ペンキで塗りつぶすというのが一つのやり方なのですが、中にどんなパンを置くかによって、使う塗料を変えています。コメットのパンは、素朴というよりもスタイリッシュなイメージ。ですので、中の壁などもペンキで塗りつぶし、都会的な空間に仕上げました。最近は、予算がない場合の床材は、土間のままで防塵塗装だけ施すというケースも多いですね。塗装してあるほうが、掃除も断然しやすいです。厨房の床の場合は、一般的にはグレーの防塵塗装を施しているお店が多色に近い色でしたので、同じ水色でもグレーがかった落ち着いた色をメインに採用。もとのテナントに残っていた骨組みは白で、上から塗装してもはがれてしまうため、そのまま残すことに。外装がグレーがかった水色と白なので、内装も統一感があるようにライトグレーにしましょう、とご提案しました。このお店のパンは、一見すると地味なのですが、食べるとどれもおいしかった。やさしい味のパンと、「ハナサクベーカリー」という店名の響きからイメージを膨らませ、店名ロゴを角のない丸いフォントに変えて、ガラス窓に縦に入れることで、昔の床屋さんのようなイメージに。ヨーロッパにありそうな雰囲気のなかに、昭和レトロな感じをミックスさせ、温かみのある雰囲気を演出しました。店づくりでは、まずファサードが大事な要素なのですね。どんな店でも、お客さまを呼び込む顔になるのがファサードです。全体的なつくりだけでなく、店名をどこに、どのように入れるかも大事な要素。看板は大きいほうが遠くからも目立ちますが、大きすぎると品がなく見えてしまいます。個人的に好んで使うのが、看板の面積に対して不自然なほど小さく店名を入れるという手法。しかも、ど真ん中ではなくて、右上に控えめに入れるのが好きなんです。また、「サカモト」(千葉・幕張本郷)というベーカリーの場合は、アルファベットで「SAKAMOTO」とだけ入れています。私は打合せの際に、パンを売る店であれば、ブーランジュリー、ベッカライ、ベーカリー、パン店のうちどれがイメージに近いかをお聞きするのですが、「サカモト」の店主は自身の苗字を入れることは決めていたものの、悩まれていた。そこで、いっそのこと名前だけにしてみたらかっこいいと思いません?とご提案したんです。割烹にありそうな、粋で潔いイメージです。ちなみに、今ではちょっと時代遅れ感もありますが、以前から提案し続けているのが、「〇〇製パン所」というネーミング。一時期、ラーメン店が「〇〇製麺所」とつけているのを見ていいなと感じたのですが、こちらはなかなか採用になりませんね(笑)。どんなデザインになるかは、もとの物件の状態も影響しますか。物件は基本的に依頼主が探してくるのですが、居抜き、スケルトン、新築など状態はさまざま。4 3頁参照)の場合は、物件の物件の状態によって、予算が変わるといっても過言ではありません。「ブーランジュリーコメット」(以下コメット、1 42頁参照)の場合は、居抜きのうどん店だったのですが、厨房機器や什器などがそのまま残っていたので、撤去費用だけでました。さらに、つくりたいという希望でしたが、床が抜けてしまっている状態でしたので、その修繕費用もかかりました。また、「カフェコパン」(1持ち主を探すところからのスタートでした(笑)。持ち主が不明な古民家だと聞き、法務局に行けば登記上の持ち主を教えてくれると思いますよ、とアドバイスしたんです。古い物件だったので、こちらは耐震補強と修繕費にお金がかかってしまいました。私のおもな仕事は、最終的に保健所の許可が出るよう必要最低限の設備をととのえることと、物件の状態を見て、何を残し、何を新しくつくり替えるかを考えることだと思っています。デザインというよりは、リフォームに近い感覚ですね。経歴的にもリフォームの仕事が多かったので、その部分はほかの業者さんより得意かもしれません。残す部分と、生かす部分。あとは、予算とのバランスですね。100万円ほどかかってしまい2階に厨房を  AQ     予算がない店の小物は手づくりのアイデア勝負パン店車の交通量が多い東京・環状七号線沿いに立地。白い壁と真っ赤な扉のファサードは、遠目からでもよく目立つ、訴求力のある組合せだ。店内は、白を基調にしたシンプルな空間。対面販売でパンを売ることを想定し、ガラスをはめた2段の陳列ケースを設置した。「コメット」の外観は、明るいブルーが印象的。築50年の建物をモダンに生まれ変わらせた。141ラ ブランジェ ナイーフ(東京・若林)case1QAQA

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