鮨職人の魚仕事
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赤身の仕込みカスゴに限らず、酢締めの加減は作る人によりさまざまですが、私はイワシの酢締め(80頁)と同じ考え方で、もともと身の柔らかいカスゴの特性を生かすべく、硬く締まりすぎないカスゴの酢締めをめざしてきました。そのために考えた工程のひとつが、カスゴを立て塩(海水に近い塩分濃度の食塩水)に漬ける方法です。身にじかに塩をまぶすよりも塩分の浸透が穏やかなので、強く締まりすぎることがありません。実は、この方法を選んだのにはもうひとつ理由があります。立て塩に漬ける直前に、皮を柔らかくするために湯引きをするのですが、一般には余熱で火が入らないよう、すぐに氷水に入れます。そこで、立て塩に氷を入れてカスゴを漬けることで、ふたつの工程を同時にすませられるようにしたのです。ふたつめの工夫は酢の通し方で白身の仕込み春子の酢締めす。以前は赤酢(粕酢)と米酢の合      わせ酢に10分間ほど漬けていましたが、時間をおくと身が硬くなるのが難点でした。カスゴはイワシ以上に酢による締まりが強いので、酢に漬ける時間を大幅に短縮して柔らかさを維持しながら、酢の風味も残すことを理想としてきました。行き着いたのは、最初に米酢、続けて赤酢と米酢の合わせ酢に漬け、さらにひと晩やすませて再び合わせ酢にと、計3回漬ける方法。その分、漬け時間は各1分間弱と大きく減らしました。最初の米酢はとがった酢の酸味をきかせること、合わせ酢は赤酢の香り、コク、色を加えることが目的です。時間をおきながら2種類の酢に漬けることで、締まり具合と風味の両方を調整することができたと思います。なお、カスゴを握る際は、江戸前の伝統にのっとり、シバエビのおぼろを少量しのばせています。海老・蝦蛄・蟹の仕込み烏賊・蛸の仕込み立て塩から出したカスゴはザルに立てて冷蔵庫で30分〜1時間おいて水分をきった後、酢に通す。最初は米酢に(写真上)、次に赤酢(粕酢)と米酢を2対3の配合で混ぜた合わせ酢に(下)、それぞれ1分間弱漬ける。貝の仕込み酢から上げたカスゴをザルに立てて水分をきり、容器に入れてひと晩やすませる。翌朝、赤酢と米酢の合わせ酢にもう一度軽く漬け、水分をきって仕上げる。写真は右が1日目、左が2日目の仕込みを終えたカスゴ。その他の仕込み2種類の酢に通すひと晩やすませる67立て塩に浸し、酢は種類を変えて3回通す

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