シェフが好きな野菜の食べ方
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012 子どものころ、トマトといえば夏のもの。喉が渇いたら井戸水で冷やしたトマトにかぶりついたり、厚い輪切りにして砂糖と塩をふって食べたものです。そのころのトマトは今に比べたらずいぶんすっぱくて、僕は青くささが得意じゃなかった。 冬にもおいしいトマトがあると知ったのは、ラ・ブランシュをオープンしてからです。毎日市場に通うなかで出会ったのが、静岡県掛川市のトマト。「糖度が何度」などと甘いトマト一辺倒だった当時、甘いだけじゃない、酸味もコクも青っぽさもあることで力強い味わいになったトマトに衝撃を受けました。今ではよく知られていますが、トマトの原産地であるアンデスに似た環境を意識し、水をできるだけ与えずに育てることで、トマトが水分を取り込もうと根や葉を張って力強い味わいのトマトになる。そういう育て方をする人がいることと、なによりそのトマトのおいしさに感動し、トマト観が一変。料理も変わりました。 それまでは「フランス料理はトマトの皮を湯むきする」と教わったら、当然のようにそうしていたけど、皮と実の間に旨みがある。おいしいトマトならなおさら。だから僕は基本的に皮はつけたまま料理し、トマトのロースト(P.19)でも皮を一緒に盛ります。ここでは紹介していませんが、僕が作る生のトマトを泡が立つくらいまでひたすら包丁でつぶしたソースは、皮からエキスを絞り出すように叩き、旨みをしっかり引き出すのがポイント。皮があることで口に余韻が残り、また食べたくなるんですね。これも、おいしいトマトがあって生まれたレシピです。季節通年出回るが、11月から翌2月ころの掛川のトマト、夏の北海道のトマトがとくに気に入っている。それ以外の時期は、いろいろな産地のものを使う。保存する基本的に完熟のものを仕入れるので、冬のトマトも夏のトマトも冷蔵庫で保存する。選ぶヘタの下のにおいをかいだ時に、トマトの青い香りがしっかりするもの。持った時に重みがあるもの。お尻から放射状に筋が多く入っているものは部屋がいっぱいあり、じっくり育って密度が濃い証拠。店では小ぶりでお尻が尖っていないものを使う。下処理使う時にさっと水で洗うだけで充分。トマト

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