キュイッソン
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014*対して、元来の串刺し肉のあぶり焼きはロティール・ア・ラ・ブロッシュ rôtir à la brocheと言う。現代では電気式のロティスリー(あぶり焼き機)が活用されている。Rôtir au fourふたつのロティール:「串刺し肉のあぶり焼き」と「オーブン焼き」ロティールrôtir とは「あぶり焼く」という意味。串に刺した肉の塊を、薪火などの熱源に直接かざしてあぶる、というのが元来の形だったが、オーブンという調理機器が登場してからは、密閉オーブンでのロティール(ロティール・オ・フーrôtir au four)が広く定着している*。どちらも目指すところは、「表面はこんがりと香ばしく、内部はしっとりとジューシー」な焼き上がり。そこに至るアプローチに違いがある。「オーブンから取り出した後、休ませる」までがキュイッソン火床に肉の塊を直接かざして焼く場合、肉全面に同時に均等の熱はあたらない――おもに熱源に向いた面にあたり、反対面は「加熱を休んでいる」状態。ゆえに、交互に面を変えながら時間をかけて均等に芯まで熱を伝えていくことがポイントとなる。他方、密閉型オーブンで焼くロティール・オ・フーでは、(基本的には)肉全面に高温の熱があたる。効率がよいので加熱時間は短くてすむが、ただし、肉の塊が大きいほどその後に「休ませる(ルポゼ)」プロセスが必要となる。高温で一気に焼いた肉は、内部で水分(肉汁)が“沸いたような”状態にあり、この熱い肉汁をいったん落ち着かせなければならないからだ。休ませることで、肉汁がその「熱」とともに肉内部全体にしみわたり、しっとりとジューシーな仕上がりになる。その時点で、狙いの焼き加減(レア、ミディアムなどの)となることが理想だ。ロティールの原点回帰:「休ませながら焼く」という考え方オーブン焼きは本来「高温で一気に焼き上げる」のが得意な技法だが、「オーブンに入れる→取り出して休ませる」を交互に繰り返しながらゆっくりと焼いていくことで、ロティール・ア・ラ・ブロッシュにより近い火入れを再現することもできる。もちろんその場合は、長時間つきっきりで肉の状態を確認しながら焼く必要がある。オーブンを使う意味――鍋に残った焼き汁をソースにする。オーブンに入れるために肉をのせた鍋には、肉から脂肪と水分が落ち、それが煮詰まるとスュック(sucエキスのこと)がこびりつく。このスュックに少量の液体を加えて煮溶かしたもののが、フランス料理の「ソース」の原点だ。なお、肉と一緒にミルポワも焼けばソースはさらに風味豊かになり、スュックを少量のアルコールで基本のロティール

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