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2012年04月13日

『スペシャル アンティパスト』

06138.jpg『スペシャル アンティパスト』
著者:原田慎次、堀江純一郎、斎藤智史
発行年月:2012年4月14日
判型:B5変 頁数:260頁


 1年近くに渡って撮影でおじゃました3店。
料理だけでなく、多岐に渡るシェフのお話は
実に興味深いものでした。

料理については本書をじっくり読み込んでいただくとして、
ここでは私の個人的な感想などを書くことにします。

シェフの人となりやお店の様子などを
少しでも垣間見ていただければと思います。


06138_1_1.jpg●原田シェフ (アロマフレスカ) ====================

 取材途中、「それって何ですか?」「どういう形状のものですか?」と、勉強不足ゆえの愚問を繰り返す私たちに対して、原田シェフは何度でも厨房に走り、必ずその現物を持ってきて見せてくださいます。味見させてくださいます。そんなサービス精神溢れるシェフの姿勢が、レストランのサービスにも表われているのでしょう。

06138_1.jpg レストランでは、テーブル上に名前を書き入れた「Welcome」カードが綺麗にセットされており、会計の際の伝票にも必ず手書きで「いつもありがとうございます」のひと言が添えられています。ちょっとしたことなのですが、そういうところまでもてなしの心が行き渡っているのは、とても気持ちのいいものです。そして、食後についつい話し込んでいると、次々と違う種類のプチフールが運ばれてきます。「ストップ」と言うまで延々に続くわんこそば方式、というのはウソですが、とりどりのプチフールは特に女性にとっては嬉しいもの。フロア中央に飾られた大きな生花が、銀座のど真ん中にいながらにして季節を感じさせてくれ、毎回楽しみにしていました。


06138_2_2.jpg●堀江シェフ (イ・ルンガ) =======================

 イタリアを、なかでもピエモンテをこよなく愛する堀江シェフ。基準になっているのは「イタリア人が食べた時においしいと思ってもらえるか」だとうかがったことがあります。9年間を過ごし、現地でシェフとして一ツ星を獲得した経験を持つだけに、イタリアに対して本当に真摯に向き合っておられるなといつも感じます。その根っこの部分は崩さずに守りつつ、奈良の地にあって、ランチは開店以来毎日満席という繁盛ぶりを続けておられるのは立派です。

06138_2.jpg観光スポットは周囲に数えきれないほどありますが、休みの日は食材探しなどに駆け回り、ろくに奈良を観ていないとのこと。イタリアに対してと同様に、料理に対しても食材に対しても、真面目さは変わりません。
 奈良木綿のどっしりとした暖簾をくぐり、格子戸を開けて一歩足を踏み入れると、そこには別世界が広がります。昼は四季折々の木々が自然な姿を見せる庭の風景を楽しみながら、夜は行灯の灯りに誘われて玄関へと向かうアプローチ。道路の喧騒からは想像できない静かな空間です。クリスマスシーズンにうかがった折には、大きな大きなもみの木が鎮座ましましていました。


06138_3_3.jpg●斎藤シェフ (プリズマ) =======================

 斉藤シェフの、食材へのこだわり、いいものを見極める目(食材に限らず)は怖いくらいです。業者の方には、ダメなものはダメとはっきりと伝え、徹底的に品質を追求し(「喧嘩する」by斎藤シェフ)、お互いに緊張感を持ち続けることで、常に最高のものを入手できるというのがシェフのポリシー。人にも厳しいけれど、何より自分に厳しく、料理には本当に手がかかっていて、仕込みの仕事量は半端ではありません。

06138_3.jpgそれでも、毎朝市場へ足を運び、営業後はピッカピカに厨房(&店舗)を磨かれています。「そんなことは当たり前」と涼しい(?)顔をされながら……。
 ある日ディナーにうかがうと、大きなガラス窓が全面開け放たれていて、何とも心地よい空間が広がっていました。その日は小ぶりの雨だったのですが、かすかな雨音やら、濡れた植物の香りやら、蝋燭の炎のゆらめきやらがアンニュイな雰囲気を醸し出して…。そんなオープンエアになる季節もおすすめです。

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投稿者 webmaster : 2012年04月13日 09:44