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2011年09月27日

料理本のソムリエ [ vol.29]

【 vol.29】
ところでこのブログって何なの?

 いつの間にか予告宣伝もなしになあんとなく始まったこのブログ、はたして1年続けさせてもらえるかしら、と思っていたのですが、いつのまにか30の大台に突入寸前、1年と5カ月も続いておりました。

06003_jishin.jpg震災直後は新着情報の欄に『地震の時の料理ワザ』PDF無料公開という重要なお知らせが貼り付けてあったので、それを押しのけないようにと更新をお休みしているうちにすっかりボケて、1周年を見過ごしておりました。
いまさら約1周半年記念もないのですが、ここであらためてこのブログについて説明しましょう。ときどき料理本からそれてきて、原発とマスコミ批判なんだか古本自慢なんだかおっさんの繰言なんだか、コーナーの趣旨がよくわからなくなったりしますし。

 このブログの存在意義は、ずばり!「編集部だより」の埋め草です。当社HPでは新刊の発売がありますと、担当編集者が工夫をこらしてその書籍の見所や編集上の苦労話などを紹介しております(必見ですぞ)。ところが新刊書籍の刊行は編集や印刷の都合で、コンスタントに続くとは限りません。これでは更新がまばらになってしまう。そこで2週に1回くらいのペースで定期的に何か記事を配信し、いつもこのページの存在を気にかけていただこうと、世にあまたある料理本を広く案内するコーナーが設けられたというわけです。そのため新刊書が多い週はお休みしたり、パソコンのハードディスクがお釈迦になった週はお休みしたり、自分の仕事でお尻に火がついた週はお休みしたりと、休み多めで気ままにひっそりと更新しております。

ryoribonsomurie.jpg「料理本のソムリエ」というタイトルは良書をガイドしようという狙いからだったのですが、本の紹介はそっちのけでだんだん雑談中心の「料理本のおたく」の色合いが濃くなっております。1年以上経ちました間にわが社HP のコンテンツも充実してきたので、もはや風前の灯といえましょう。

 料理本の紹介コーナーにしては、圧倒的シェアを占めるおかずレシピ本をほとんど取り上げておりませんが、これはレシピのよしあしというのは好みが反映しやすくて、誰にでもお勧めできると言い切るのが難しいため(というのが逃げ口上)。読者がどんなライフスタイルなのか(「ごちそうさマウス」が聞きたいステキな奥様なのか、だめんずを旦那にもったOLなのか)、誰のために作るのか(毎日ドカ弁持参の体育会系中学生なのか、「油物は苦手だとあれほど言っているのに!」が口癖の姑なのか)でも、評価基準がずいぶん違ってきますし。まあ専門書の出版社のHPなので、おかずレシピ情報を求めている読者はおるまいし、そもそも家庭の主婦どころか料理人さんすらこのブログを閲覧しているのかしら? たぶん読者は新刊情報を得るためにご覧になる書店関係者やお世話になっている取引関係のかたが多いと思うので、本好き相手を前提に社内報感覚で書かせていただいております。だから、やたらに本郷や湯島界隈の話題が多いです。

 営業的には柴田書店の既刊書(それもまだ在庫のあるもの)をもっと取り上げるべきなのですが、そればっかりなのも口はばったいよなあ、写真を多く入れようとするとどうしたって柴田の本から採ることになるしねえ、などと逡巡しているうちに、あっという間にあらぬ方向へと迷走し始めました。おまけに vol.15 でソムリエどころか、ご隠居であることをみずからリークしてしまいました。話題がかびくさい方面に偏っているうえに、いちいち揚げ足取り調なのは年のせいと思って勘弁していただきたく思います。むかーし、月刊誌の書評コーナーを担当していた頃、以前もさんざん見たことのあるような安直な料理本が次々と出版されるのに「お前ら料理本をなめとんのかっ」と切れかけた辛い経験がありまして。なにせ、当時はネットなどありませんから、出版取次の新刊予告を隅から隅まで読んで、おっ、これは取り上げられそうだぞというのを見つけるたびに本屋に走るというアナログな選考方法をしていたので、期待が裏切られると憎さ百倍。これはぜひ紹介したいという料理本を毎月3冊探し出すのが、なかなかの負担でありました。

 その点、ここでは冊数の決まりもないし、新刊に限っていないので気楽です。コメント欄がないので炎上もしませんしね。そのぶん、どなたが読んでくださっているのかさっぱりわかりませんが…。

 そもそも「専門出版社は取材先がイコール読者なので、読者の顔が見えている」なんて言われますが、そうとも限りませんぞ。料理長さんのところに取材に行っても「若い頃はおたくの本で勉強したよ!」っていうありがたい話をうかがうことはよくありますが、最近の本となると意外と話題になることが少ないのです。お忙しい料理長クラスは普段そんなには本を読まれないようですし、今さらよその人の料理を見て参考にする必要もないのが当然でしょうし。ただ、さんざん「昔は読んだ」と聞かされるのも切ない話です。今はいったいどんな方が柴田書店の本をどう読まれているのでしょう。Amazonを見ても売れてる本だからといって必ずしもコメントがついているとは限らないし……。

 その点、綴じ込みの読者ハガキの回答は、ためになりますしはげみになります。お叱りもまた甘んじて受けておりますので、どうかご返信お願いします。でもあえて、あえて言うなら、ほめてくださると担当者はうれしいです。とてもうれしいです(大事なことなので二回言いました)。ただ、ときどき同業他社の本を小社の出版物と勘違いされて、おほめの言葉をくださる方もいらっしゃいますが……。

 ハガキの場合、マメに返してくださるのは、どうも料理人さんよりは会社関係や主婦の方が多いようです。それもどうしても年齢層は上のほうに寄っています。ときにはリタイアされた料理好きな方だったり、会社のお偉いさんだったり。こうしたかたは、ときどき思い入れの余り小社に直接電話をかけてくださることもありますが、多忙の折はどうかどうか短めに……。

 じゃあ、若い人には小社の本をご覧いただけていないのか。どんな感想を抱かれているのか。ブログやツイッター上に流れているかしらと思って検索しても、これまたそうは多くヒットしません。つぶやきは短いですから、読んでためになったのかならなかったのか、よくわからないこともあるし、ブログはアフィリエイト狙いも多いし……。そもそも料理本ってほかの本との違いを説明しづらく、紹介したり話題に上げたりするのが正直面倒ですよねって書いたりすると、このブログの存在理由が脅かされるのでこの辺でやめておきます。

 こうした不安を抱いたときには、本屋さんへと参ります(リアル書店万歳!)。料理本の棚に行くとときどき小社の本を読まれている方がいらっしゃるので、棚の影から星明子ばりに温かい目で見守るわけです(キモっとか言わないでください。承知してるし)。たとえ他社の本でも、何が人気なのか、どこが面白いのかは立ち読みしている人の目の色でわかります。まあできれば小社の本をレジに持っていってもらえるとうれしいので、「買えー、買えー」と念を送ったりもしますが、あんまり効果がありません。

 時には若い料理人さんが彼女さん連れで来店して、本の内容をいちいち説明しているなんていうほほえましい場面にでくわすこともあります。「この料理(パテ・アンクルートでした)、今うちの店でも出してるけど、うまいんだよねえー」「えー、こんど食べさせてよー」とか。え? 別にやっかんだりしてませんよ? 会話してもらうとどこをどのように読んでいるのかわかり、いいデータが取れますので大歓迎。もっともいつの間にか料理と違う雑談に変わった挙句の果てに、一冊も買わずに帰られた日にゃ、落胆と殺意のこもった目に変わりますが。でもよく考えたらカップル客の多いカウンター店の料理人さんは、しょっちゅうこういう目にあっているわけですよね。若い皆さんは料理がサービスされたら、お話を中断してすぐに箸をつけましょうね。

 その点、電車の中で小社の本を開いている人に出会ったときは、確実に購入してくださっているので(そりゃそうだ)手放しにうれしいです。めったにありませんが。私の先輩は、電車に乗っていたら隣に座った人が自分の編集している雑誌を持っていたのでうれしくなって「その本のどこが面白いですかっ?」って思わず聞いてしまった、なんて話もあります。一般誌やベストセラーをばんばんヒットさせている出版社と比べると、いじらしくも涙ぐましい話です。

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 私が去年出くわしたのは別冊の『イタリア料理の技法』を読んでいらっしゃるかたでした。ずいぶん古いムックです。先輩に借りたのかなあ。おおっ、そこのページの座談会は私が月刊誌時代に担当した企画だぞっと思ってわくわくして見ていたら、いきなりとばされました(泣)。アーリオ・オーリオのページを熟読されています。まだ修業したての人なのかなあと思っていると、リゾットのページにきたらパスタに戻ってラヴィオリの打ち方をガン見。急に難易度が上がりましたよ。余計なものはいいからパスタをがんがん見せろという意志表示でしょうか。もうどうしたら彼の琴線に触れることができるのか、わかりません。

 夜の電車は仕事帰りの料理人さんらしきかたも多いですね。

06078_sarada.jpg『サラダ・サラダ・サラダ』をご覧になっているかたを目撃したこともあります。ところが、座って読んでいるうちに、どうしても仕事疲れのために眠くなってしまう。ぱたんと閉じてはハッ、ばさっと取り落としてはハッ……。最後には観念して大事そうにしっかりと胸に抱きかかえておやすみになってしまいました。うっかり車内に忘れたら大変ですからね。カバンに入れづらいサイズのちょっと高めの本ばかりで申し訳ありません。明日もどうかお仕事頑張ってください。


  

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投稿者 webmaster : 2011年09月27日 18:53